マツモト先生のこと―離島で先生になりました―

ショウマくん

 ショウマくんは、ザクッと言っちゃうと、生意気なクソガキ。運動神経バツグンの、野生育ちの小猿。

「タカハシ先生、こげん簡単なこともできんと?」

 って、運動場で何回言われたことか。高さ二メートルの竹馬でケンケンするなんて、普通できないわよ! 腕だけで登り棒を登るって、救急救命士の訓練でもあるまいし! マツモト先生の補助があれば、バク宙までできるのよ、この子!

 四月の遠足のときも、言われたっけ。島の裏側にある海岸が、遠足の行き先だった。

 海岸っていっても、白い砂のビーチなんかじゃなくて、黒いゴツゴツした岩が続く“瀬”だった。

 子どもたちはみんなビニール袋を持参してて、岩の裏側にくっついてる巻き貝を、晩ごはんのおかずに持って帰るんだ。ときどきタコも獲れるらしい。何この遠足……。

 ショウマくんを始め、島っ子たちは、岩の上を跳びはねながら走り回る。先生こっち、とか言われるけど、ついていけるわけない。ゴツゴツの足場で、濡れてるし。トゲトゲした貝殻がびっしりくっついた岩ばっかり。

 おっかなびっくり歩いてたあたし。ここを走るって、全然“簡単なこと”じゃないんですけど。

 こういうとき。やっちゃうんだよね、いつも。

「ぎゃっ!!」

 派手な声をあげて、転んでしまった。だってね、だってね、フナムシがうじゃうじゃ……。

 真っ先に飛んできたのは、ショウマくんだった。

「先生、ケガしとらん?」
「手のひらと膝、岩で切っちゃった……」
「フジツボが刺さっとる。痛かやろ?」

 うん、なんかやたらジンジン痛い。ショウマくんは、ウェストポーチから消毒液を出して、あたしの傷を洗った。海で切った傷は、痛いし膿みやすいし治りにくいんだって言いながら。

 ショウマくんは絆創膏まで貼ってくれて、ニカッと笑った。

「おれ、何でもできるけん、困ったら言えよ」

 ……ああ、かわいい。なんていい子。

 小さい版マツモト先生的な感じ。油断してたら、ウルッとさせられる。

 “ショウマくんは、いつも元気いっぱいのチャレンジャーです。体育では、難しいことにもどんどん挑戦してくれて、たのもしいです”
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