溺愛依存~極上御曹司は住み込み秘書を所望する~【番外編】
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
一階の車寄せエントランスに到着したタクシーから降りた拓海さんが、朗らかな笑みを浮かべた。
愛しい人とようやく会えた喜びが、胸いっぱいに広がった。
「俺がいない間、なにか困ったことはなかった?」
トラブルはなかったし、変更になったスケジュールはメールで連絡した。でも一件だけ、知らせていないことがある。
「今朝、旭食品の旭川会長から電話がありまして……」
「会長から?」
社内に入り、エレベーターに向かっていた拓海さんの足が止まる。
「はい。……赤ちゃんの顔を早く見たいと言われました」
「ハハハッ」
大きな笑い声がロビーに響いた。
拓海さんと私が婚約したことは会社だけではなく、取引先にも報告済みだ。
「そうか。それなら会長には長生きしてもらわないとならないな」
「……そ、そうですね」
出張から帰って来たばかりで、こんな話をするのは恥ずかしい。でも不在中の出来事は、どんな些細なことでも伝えるように言われている。
「早速今晩から、励んでみる?」
拓海さんが腰を屈めて、私の耳もとでそっとささやく。
「……っ!」
「冗談だよ」
目を丸くしていると、彼の唇の端がニヤリと上がるのが見えた。
「もう……」
からかわれたのに、ちっとも嫌じゃない……。
頬が緩むのを必死に堪えながら、再び足を進めた拓海さんの後を追った。