俺のこと好きでしょ?-六花の恋-【完】
「……俺、赤ちゃんの水都の記憶あるよ?」
「俺もある。でも、お腹の大きな琴さんの記憶はないだろ?」
ポクポクポク、チーン。
「……ないわ。え、どういうこと?」
記憶の写真を思い出してみても、お腹の大きな咲雪さんの記憶はある。でも、琴さんは……。
「……巽さんが、夭折(ようせつ)――若くして亡くなった兄に代わって跡取りになったのは知ってるだろ?」
「うん」
巽さんは藤沢家の二男でありながら、当主というやつだ。
由羽がゆっくり説明してくれた。
「巽さんは藤沢の家と取引をしたんだ。長男が亡くなって巽さん以外、直系の子供はいなかったから、家としてはなんとしても巽さんに跡を継がせたい。でも家の人たちが、名家との縁組を用意してることを把握してた巽さんは、琴さんとの結婚を認めることを条件に跡継ぎになった。そして、何があっても琴さん以外の女性を傍に置かないことも承諾させた。んで、二人は二十歳のときに結婚した」
「うん。そこまでは知ってる」
「これはあんま知られてないらしいけど……巽さんは、子が出来ない」