雨の日はそばにいて抱きしめて


「頑張っとるな」


いつの間に側に来たのか
爺さんの声に顔を上げると

ビロードの箱を二つ持ったまま立つ
少し悲しそうな顔をした爺さんが居た


「もう少しかかるから
先に寝てていいぞ」


「あぁ、そうする」


「ん」


「なぁ、宙」


「どうした?」


「恋ちゃんとは・・・いや
まぁ良い、お前も早く寝ろよ」


「あぁ」


恋とのことを聞きたかったはずだが
昔から何にしても
俺が自主的に話すのを待ってくれていた爺さん

聞きたいはずなのに
俺を優先してくれた


「待ってろよ、その内ちゃんと
紹介してやるから」


既に居ない爺さんに向けて呟くと
携帯カバーの仕上げに手を動かした









翌朝一番に携帯カバーを渡したくて
恋のマンションへ車を走らせた

寝てるのか何度チャイムを押しても
物音ひとつしねぇ

まさか出かけるはずもないだろうと

小学生の頃にやった
ピンポン連打を繰り出してみた


で・・・


寝癖の髪にパジャマ姿で現れた恋の反応が


「・・・・・・・・・は?」


驚いて口を開けた無防備な顔も
可愛くて仕方ない


それを揶揄って怯んだ隙を見て
部屋の中へと上がり込んだ

恋が覚醒する前に
コーヒーを入れて

此処へ来た理由を放った



「俺が恋に会いたいから」


そう言うと固まってしまった恋

夜空柄の恋用のカップを俺が持ち

来客用と思われるカップを恋に持たせると


隙を突いてサッと唇を重ねた


驚き過ぎて
ずっと口が半開きのままの恋

その愛しい顔を見ながら
このまま俺に押し流されてくれることを願った









なぁ、恋


恋と会えたのは偶然だけど


もう一度会えたのは必然なことで


俺の腕の中に収まるのは当然だった






「愛してる」





たった五文字の言葉で

嬉しそうに微笑む恋が見られるなら







他になにも要らねぇ





























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