雨の日はそばにいて抱きしめて
「恋の彼氏見たよ」
翌日学校で聞いたのは
宙が私じゃない女の子と歩いていた話だった
「もう別れたの?」
口を開けば泣きそうで
頭を左右に振るだけが精一杯の返事だった
・・・・・・会いたい
会って宙の口から否定してもらえば
全て解決するのに
躊躇う胸の中
流石に一週間が過ぎた頃には
真逆の気持ちだけが残っていた
そして・・・
宙を待たなくなって二週間目
目の前に宙が現れた
「よぉ、久しぶり」
「・・・・・・っ」
なんでと呟くのを忘れる程
見上げた宙は笑っていた
聞きたいことも言いたいこともあるのに
その全てが口から出てはくれなくて
涙が溢れ落ちそうになるのを我慢した所為で
酷い顔をしていたに違いない
雨の日特有の湿気が気分を更に落としそうになるのを
足を踏ん張って必死で耐えていた
「なんか言いたいこと
あるんじゃねぇか?」
黙ったままの私に痺れを切らしたのか
宙は酷く不機嫌な態度でそう言った
言いたい・・・
でも・・・
結局、言えなかった
だって
「そら〜」
宙の後ろから現れたのは
まつ毛バッサバッサのパンダで
宙の腕にしがみつくと
「早く行こ〜よ〜」
私を舐めるように見た後で
宙を見上げて笑った
「あぁ」
「カラオケ行きた〜い」
はしゃぐパンダを見て優しく微笑むのは
いつも私が見ていた宙の笑顔
私だけの特別だと思っていたのに
その子は誰?
彼女は私じゃないの?
言いたい言葉は全て頭の中に留まったまま
宙への想いが色を失って
その全てが音を立てて崩れてしまう気がした