雨の日はそばにいて抱きしめて




「終わってねぇよ」




髪をクシャリと握って頭を左右に振ると
こちらを射抜くような視線を向けた



「言っとくが
俺は一度も浮気なんてしてねぇ」



「は?じゃあ全部本気だったって?」



「違ぇよ、聞け
パンダを使ったのはお前の為」



「は?」



呆れて固まる私を余所に



「ツレに頼んで一芝居打って貰った
パンダは悟の相手だからな」



あの頃の友達の名前を出して
悪びれる様子も無い


何人もの女と背を向けたと思っていたのに
悟さんの彼女一人だという事実にも愕然とする


「夏休み前に爺さんの工房で
メキシコの銀細工職人に会ってな」



元々手先の器用だった宙は
職人の創り出す世界に一瞬で魅せられたという



「あの頃のお前はまだ将来のこと
考えて無かっただろ?」



「・・・うん」



そのまま大学へ進学するだけの
漠然とした捉え方しかしていなかった



「俺は高校を卒業したら
海外へ出るつもりだったから
覚悟を決めたんだ」



髪を黒染めして将来を見据える


でも・・・そのことと
私に対する当て付けのような行動は
関係ないんじゃないだろうか


「いくら好きでもお前を連れていけねぇ
だから・・・
お前にも覚悟して欲しかった」


それならそうと言ってくれれば
そう続けようとした言葉は


辛そうな顔をした宙を見て飲み込んだ





「何年離れるか分からない間
ずっと俺に囚われていて欲しかった」




それだけ言うと項垂れた












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