雨の日はそばにいて抱きしめて
平日・・・宙を待った駅前
週末・・・階段下から見上げたアパートの窓
宙を想っていた頃の気持ちが
蘇るように胸が苦しくなった
前を向くと決めたはずなのに
こんなにも苦しい
立ち止まったままの気持ちを
解放したからこそ思う痛みが
いつ消えて無くなるのか・・・
無くならないのか・・・
今は正直分からないけれど
始まったばかりの歩みに乗せることにしようと思う
「・・・恋ちゃん?」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると
「え?」
作業服姿の庸一郎さんが買い物袋を下げて立っていた
「珍しい所で会ったな」
「はい、私・・・今日は
庸一郎さんに会いに来たんです」
「え?儂にか?」
「はい、一緒にお茶しようと思って」
焼き菓子の入った紙袋を持ち上げてみせた
「そうか、そうか、じゃあ
いっしょに行こう」
工房までの数分の距離を
庸一郎さんは気を使ったのか
沢山話しかけてきてくれて
あっという間に着いた
「恋ちゃんは初めてだったな?」
「あ、はい、ここは初めてです」
「じゃあ先ずは工房を案内しよう」
そう言うと【開放厳禁】と書かれた工房の扉を開いた
「ワァ」
一瞬で木の香りを全身浴のように浴びる
工房の中は想像していたよりも広くて
材料置き場から加工の機械類
組み立て作業場や仕上げ場
てっきり庸一郎さん一人でコツコツと作っていると思っていたのに
4人の作業員さんが見えて驚いて
数が多く入った焼き菓子のセットを買ったことにホッとした
「カリーナの風見さん」
庸一郎さんに大きな声で紹介されたから
「はじめまして」
負けないように大きな声で挨拶をしてみた
「ふふっ」
「ん?どうした?」
「こんなに大きな声を出すの久しぶりで」
お腹に力を入れて発声したことで
なんだか達成感のようなものを感じた
「そうか、偶には良いもんじゃろ?」
「はい」
自分の中のモヤモヤを吹き飛ばすように笑った