雨の日はそばにいて抱きしめて
「さぁ、恋ちゃん
コーヒータイムといきますか」
サッと向けられた手の先に
事務所のような部屋が見えて
「はい」と後に続いた
カラカラと戸車の心地良い音がする引き戸を開けると
「ワァ、これ、庸一郎さんが?」
「あぁ、そうじゃ」
カリーナで販売している“木こり”シリーズのベンチが
応接セットのように向かい合わせで設置されていた
「これも良いですね」
真ん中にあるテーブルも可愛らしい
「これは非売品」
「ですよね」
素材を生かした“木こり”シリーズは
切り株と斧の彫刻がワンポイントで入った可愛らしい物
仕上げ材以外の色付けをしていないから
使い込む程に味が出てくる
ファンが多くて入荷待ちが続いている
木村工房の看板商品だ
「さぁここに座って」
促されるまま腰を下ろすと
コポコポとコーヒーメーカーが
良い香りを運んできた
「これ」
「・・・っ」
眉尻を下げた庸一郎が申し訳なさそうに取り出したのは
パーティーで受け取らなかったビロードの箱だった
「パーティーの時は悪いことをしたね」
「・・・いいえ」
「少し宙の話をして良いかの?」
「・・・はい」
私が頷くのを確認するように
向かいのソファに座った庸一郎さんは
カップをテーブルに置くと
深く息を吐いた
「娘はダラシのない女でな」
そう始まった庸一郎さんの話は
切なくて苦しい宙の過去だった
宙が生まれると直ぐ離婚した娘さんは
しばらくは宙と二人でアパート暮らしをしていたけれど
次の相手が出来ると家を空けるようになったという