雨の日はそばにいて抱きしめて
「何度宙に家に来いと言っても
頑として譲らなかったんじゃ
・・・どうしてだと思う?」
「・・・・・・え」
小学生の頃の宙を思い浮かべてみても
聞かされたこともなかったし
私に導き出せる答えはなかった
「宙は母親を待ってたんじゃ
いつ帰るかも分からん母親をな
鍵もかけずに待つことで
母親との繋がりを保ってたんだな」
「・・・っ」
「娘はそんなこと露とも知らん
薄情な女じゃったがな」
古びたアパートの中で
ひたすら母親を待つ宙を想うだけで
苦しくて・・・可哀想で
堪えていたものが決壊した
「・・・泣かしてしまったな」
眉尻の下がる庸一郎さんに
頭を左右に振るだけで精一杯で
ただ、ただ・・・
あの頃の宙を思って
涙が落ちた
「あのアパートは宙の城じゃから
取り壊しまでは部屋を借りたまま
いたんだけどな」
一年前に建築基準法に引っかかって
取り壊しが決まったのを機に引き払ったという
そのお母さんと宙を繋ぐアパートが壊された直後
肝臓を患ったお母さんは亡くなった
「そういえば・・・
さっき恋ちゃんアパート跡に
立ってたよな?」
「・・・はい
懐かしさと・・・寂しさと
色々思い出してしまって」
「え?ってことは
アパートに来たことがあるのか?」
庸一郎さんの顔が驚愕の色を見せた
「あ、はい。よく遊びに」
「は、そうか・・・
そうじゃったか・・・」
そう言うとホッとしたように
穏やかに微笑んだ
「・・・?」