雨の日はそばにいて抱きしめて



絢音は泣きながらやって来て
笑顔で帰って行った










「今日、工房へ来たんだってな」


「うん」


カリーナの社長からの指示で
工房へ出向いたことを話すと


「良い会社だな」と笑った宙


「そうだね」


穏やかな社長を思い出して頷く


「俺もしばらくはカリーナでの
販売をお願いするつもりだから
恋も宜しくな」


「・・・うん」


“しばらくは”ということは
その内他でと考えていることになる

少しの寂しさが表情に出ていたのか


「どうした、恋」


側にきて頭を撫でてくれる


「宙の作品って素敵だから
今に有名になるんだろうなって思っただけだよ」


有名になればもっと高みを目指すことになって
あっという間に手の届かない存在になるだろう


好きだから応援したい

好きだから足枷になりたくない

好きだから重荷になりたくない


私の宙への想いはこれから邪魔になるかもしれない


もう一度・・・蓋をしよう



なのに・・・宙は



「俺は量産を望んでる訳じゃねぇ
俺の納得いくものを俺の手で作り出す
そりゃ、一人じゃ無理だから
数名は欲しいな、それと商売のことを考えればネット販売もやりてぇ
だがな、俺はスタイルを変えるつもりもねぇ
好きなことをして、恋が側にいて
幸せが手の届くところにいつもあれば
他に何も欲しいもんはねぇ」


蓋を簡単にこじ開けた


“幸せは手の届くところに”
小さな頃からそれを望んでいた宙

その想いに触れて
泣きそうになった私の目の前に

持ってきた紙袋を置いた


「開けてみろ」







< 81 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop