雨の日はそばにいて抱きしめて
ビロードの箱を差し出し
跪いたまま俯いていると
ヒールしか見えない女が
息を飲むのが分かった
そりゃ、驚くだろうな・・・
単なる余興と面白半分で仕掛けたから
女の驚く顔を見てやろうと
少しずつ顔を上げた刹那
「・・・っ」
全身に電気が流れたように
肩が跳ねた
・・・恋
深いブルーのドレスに身を包んだ
ハーフアップスタイルの女は
会いたくて会いたくて堪らなかった
愛しい女【恋】だった
・・・恋
あの頃よりグッと大人っぽさを増した
あの頃より柔らかい色に染められた髪は華やかに飾られている
なにより
可愛かったあの頃より
綺麗になった
俺の沸き立つ想いより
目の前の恋は驚きの表情が崩れ
今にも泣き出しそうに歪んできた
放心状態の恋に気づいた爺さんは
「ありがとう」
恋が返事をしないまま
ビロードの箱を手に持たせると
「ちょっと抜けよう」
恋の手を引いてステージを降りた
慌てて追いかけようとした俺を
爺さんは一度振り返ると表情だけで制して
ステージ裏にあるパーテーションに囲まれたスペースへと入ってしまった
「・・・恋」
まさか此処で会うとは思ってもみなかった
煩いくらいに強く打ち続ける心臓に喝を入れながら
先読みするように
会場の外へと飛び出した