雨の日はそばにいて抱きしめて

ヒールの音を立てて
俺に背を向けた恋は

駅前通りをそのまま西へと歩いて行く


「恋っ」


何度も声を掛けながら
後を追いかける


・・・きっと泣いてる


抱きしめてやりてぇのに
拒絶されたままじゃ
腕の中に収めることさえできねぇ


付かず離れずの距離を保ったまま
恋の後ろを歩いていると

城山公園近くのマンションへと入った

止まったエレベーターの階数を確認すると

階段を一気に駆け上がる

廊下へ出るとちょうど玄関ドアが閉まるところだった

迷わず閉まったばかりのドアを開けると
玄関に蹲る恋の肩が大袈裟に揺れた


「恋、俺だ」


声を掛けると
身体を捩った恋の瞳が驚きに開いた


「驚かせて悪りぃ」


怖がらせるつもりはない


「ほら」


蹲る恋に手を添えて立ち上がらせると
涙の跡が見えた


「ちょ、離してっ
・・・・なに?つけてきたの?」


慌てたように靴を脱ぎ捨て
部屋の方に逃げようとする恋


「だって、お前逃げるから」


「・・・は?」


「何度も声かけたぞ?」


「・・・っ」


名前を何度も呼んだのに
やっぱり気付いていなかった


「恋」


まだ赤い瞳と頬を伝う涙に触れた


「俺はお前を泣かせてばかりだな」


頬にを当てると
ポロポロと溢れ落ちる涙に胸が苦しくなった


「恋」


「・・・なに」


「会いたかった」



それだけ言うと恋の腕を引いて
微かに震える恋の華奢な身体を抱きしめた








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