140度の彼方で、きみとあの日 見上げた星空

それは、潰れて、灰色みがかった中身が飛び出した、どうみてもゴミみたいな姿のバナナ。

だけど、朝食べたのと同じ味がした。

最高の朝だった、あの時の空気が蘇る。


『しっかり食っで、河を渡っだらゲニムだ』
『松田、俺らは死なねえよ?行ぐべ』


…………っ。


「死なないって…、言ったのに…っ。阿久津さんの嘘つき……っ!」


ゲニムはすぐそこなのに……


あたしたちはまた大切な仲間を失った。

阿久津さんの大きな笑い声も朗らかな歌も、もう聞こえることはない。


バナナの甘い香りが天幕の中に空しく漂っているだけだった。
< 343 / 481 >

この作品をシェア

pagetop