140度の彼方で、きみとあの日 見上げた星空
あとがき
 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
 作者の寿すばるです。


 この小説は、私にしては少し異色といいますか、普段は野いちごでバンドとかアイドルが出てきて、重いテーマはあっても割とノリ良くキラキラしたものを書いているので、以前から私の作品を読んでくださっている方は驚かれたのではないかなと思います。

 そんな私が今回なぜ戦争を、しかもあまり創作としては取り上げられることの少ない「ニューギニア戦」を題材に書いたかというと、奇跡にこぎつけたくなるような偶然の接点を持ったという経緯があります。


 私の嫁いできたところは作中のゼロポイントへも車で少しのところです。

 その婚家のお墓が家のすぐ近くにあって、その墓碑に親族の戦死が刻まれているのですが、その戦地がニューギニアなのです。

 私の実家はいわゆる核家族で、両親のそれぞれの代々のお墓にあまり縁がなく、こうして墓碑をじっくりみることがなかったので、私はこの戦死の文字に結婚当初から胸に小さな棘が刺さったような痛みを感じていました。

 気になって主人に尋ねてみましたが聞いたことがない、と。

 義父さんには興味本位で訊けることではないので、聞き込みはそこでおしまいにしてインターネットで調べていました。

 けれど8年前のインターネットの世界は、今思えばまだまだ未発達だったんですね。

 ニューギニアが悲惨な戦地だったということが分かったくらいで、出産、育児に追われる中だったこともあり、次第にその興味も薄れてゆきました。


 しかし、時が経ち、私たち夫婦もそのお墓の近くに家を建てることになり、お墓の前を毎日通るようになりました。

 そこでまたふと気になっていたことを思いだし、改めて調べなおしてみたところ、前に調べた時には見つけることができなかった様々な情報が飛び込んできたのです。

 知った中で一番驚いたことが、墓碑に刻まれた戦死場所が、実家、つまりその方の生家の経度とほぼ一致したことです。

 妄想家の私にとって、その偶然の一致はまるで故人の魂が経線上を辿って帰ってきたような、そんな気がしました。

 それが今作のキーになって、「140度」というタイトルにもなっています。

 言ってしまえば単なる偶然ですが、その偶然に私は突き動かされ、ニューギニアについて調べる日々を重ねました。

 このあたりまでは、まだ小説を書こうという風ではありませんでした。

 けれど、調べれば調べるほどに凄惨な戦地であったこと、そしてそれなのにそれを伝えるメディアが多くないことが私をどんどん創作に駆り立てるのです。

 オカルトのようですが、まるでその亡くなった親族に書けと言われているような、それこそ、これを書くためにこの地に嫁いできたのではないかとさえ考える始末でした。

 ただし書くだけなら、少ないなりにも既に著名な方がまとめた手記などもあり、私が入るまでもない分野です。

 ならば、若い人たちに伝えるために書くのはどうか?
 それはこれまでの、どの本でも試みられてはいないのではないか?
 そう考えました。

 そこで地図とにらめっこをして、経度という共通点でなにか面白く、というと不謹慎ですが、エンタメ性をプラスして作品にできれば、若い人たちにもこんな戦場の、こんな戦争があったんだよということを伝えられるのではないか、そう、思ったのです。


 そんな経緯で練りあがったのが今作です。

 小説書きとしてはまだまだ駆け出しの私が、戦争ものなどに手を出してしまって良いのだろうか、無念の犠牲者が、また、いまだ深い悲しみの中にいるご遺族がいらっしゃるであろうこの地を、エンタメの、しかも恋愛ものなどに使ってしまってよいのだろうかと、もがき、あがき、書きあがった今でもまだ揺らいでいます。

 その答えはまだまだ出そうにありませんが、今作をきっかけに若い人が少しでもこのことに興味をもってくださったなら、そこで初めて今作が意味のあるものになるのだと思うのです。

 冒頭で主人公が指す「泣ける戦争映画」のようなものも、泣かせるためにあるわけではなく、伝えるためにあるのだと私は思っています。


 私は決してもう若くはありませんが、私はもちろん、私の両親も戦争を知らない世代で、戦争を体験し、またその記憶を持つ世代は、若くても80代です。

 その年代の方から直接お話を伺う機会も、どんどん減っています。

 ですので、私を含め、戦争というものに興味をもった人間がこうして何か形にすることで、決して繰り返してはならない歴史を風化させずに残し続けられるのではないかなと思うのです。

 そして、この小説を通して、生きるということについて、今、生きているということについて、何かを感じていただけたら作者としてこれほど嬉しいことはありません。


 とりとめなく長くなりましたが、あとがきとさせていただきます。

 重ねてになりますが、本当に、この小説を見つけ、ここまで読んでくださったことに心よりお礼申し上げます。

 ありがとうございました。




令和2年 1月25日

   寿すばる
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