俺の妻は本当に可愛い～恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています～

１．最低の出会いと最悪の失態

お気に入りの場所は、こんな夜でも私を受け入れてくれる。

いつも通りの佇まいがなんだか嬉しくて温かい。

目にじんわりと浮かぶ涙を、瞬きを繰り返して必死で押し戻す。


まだ泣いちゃダメ。

もう少し、せめてベンチにたどり着くまでは我慢しなきゃ。


キイ、とほんの少し甲高い音がして門が開く。

思っていた以上に重みがあり、その先には昼間とは違う別世界が広がっていた。

柔らかな灯に照らされ、静寂に包まれている庭園内は周囲の喧騒とは無縁のようだった。

しばしその光景に見惚れつつも頼子(よりこ)さんの言いつけを守り、門を内側からしっかり施錠する。


石畳の上にカツンとヒールの音が高く、細く響く。

ピンヒールの先が隙間に入り込まないように気をつけながら、管理人室横のベンチを目指す。

私には不似合いな、大人の女性の雰囲気を漂わせた靴。

今後はきっと履かないだろう。

そう考えた途端、鼻の奥がツンとした。


六月のしっとりした空気の中に濃い緑の匂いを感じる。

生い茂る木々に周囲をぐるりと囲まれたベンチ。

まるで円を描くようにその部分だけぽっかりと空が開けて見える。