俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「どうして婚約だなんて心境になったのかもわからないし、彼女が落ち着いたら婚約破棄を申し入れようと準備していたんだ」

「……婚約したばかりなのに、ですか?」

辺見さんの先ほどの態度を思い出す。

今でも彼を想っているのではないか、そんな考えが頭をよぎる。


「愁さんは……辺見さんを当時、好きだったんですよね?」

確認するかのように問う。

どうしてだろう。

過去だとわかっているのに、緊張する。

ドクドクと鼓動が速くなるのがわかる。


破棄したとはいえ、一度は婚約までした女性だ。

いくら最初は友人のような感情だったとはいえ恋心が芽生えないとは限らない。


「嫌いじゃなかったが、どうしても友人としか思えなかった。恋愛対象としては見れなかったんだ」

ゆっくり思い出すように言われた言葉が、なぜか胸に深く突き刺さる。

「俺はその当時海外赴任もしていたし、仕事が一番大事だった。板谷の後継者として相応しくあるために、いろいろなものを学びたかった。今から考えればひどい態度だと思うが、婚約なんて、まだどこか絵空事だったんだ」

憂いを含んだ視線がテーブルに落ちる。


カランと水が入ったグラスの氷が揺れ、僅かな音が響く。

店内は外の熱気が噓のように心地よい室温になっているというのに、手が、指が冷たくなっていく。
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