俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
注文したアイスティーを先ほどと同じ店員が運んできてくれた。

流れるような所作でテーブルの上に置かれたコースターと琥珀色の綺麗なアイスティー。


私はそれを黙って見つめていた。

長身の店員はなぜか、彼に少しだけ視線を向けて、音もなく優雅に席を辞す。


「……それが婚約破棄の理由ですか?」

自分の声とは思えない乾いた声が出た。

「いや、婚約破棄はその後、時間をかけて何度も話し合って決めた……俺は千奈さんを大事にしていたとは言えなかったし、お互いにその情熱もなかったから。そもそも結婚というものをあの頃は想像できなかった」

自業自得だ、と寂しげに言う。

その表情は自信に溢れた普段の姿とは似ても似つかないものだった。


胸の中をギュウッと強くつかまれた気がした。

痛くて切ない。

この気持ちの正体はなんだろうか。


「女嫌いって……」

「ああ、よく言われているな」

「す、すみません」


私の馬鹿、どうして余計な話をするの。こんなのただ詮索しているだけだ。


「いや、いいんだ。女嫌いというより、交際をするのが煩わしいんだ。付き合う意味、価値を見出せなくて誰かと特別な関係になるのは極力避けてきたんだ。大切なものができるとそれが弱みにもなる。後継者として前に進むため、面倒事は避けたかった」

そう言って、長い指でアイスティーのグラスを引き寄せる。
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