俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……じゃあ、どうして私を大切な女性だなんて……」


それこそ意味がわからない。

一時しのぎなら、わざわざ辺見さんに告げる必要はない。

そもそも今の話を聞く限り、この人は恋人や恋愛そのものが疎ましいのではないのか。


「失恋に傷ついた沙和の姿が頭から離れなかったから」

さらりと言われて息を呑む。


……ああ、そうか。

『婚約破棄』『失恋』は立場も重みも違うが、恋を、パートナーを失う点は似ている。

優しさも温かい視線も甘い言葉も、すべてはただ私を気遣ってくれていただけ。


それ以上の感情はない。


……恋愛感情なんて、きっと欠片もない。


その事実がなぜかキリキリと胸を締めつける。


「……私はもう大丈夫です」

最近ではまったくと言っていいほど課長を思い出さない。

むしろこの人に翻弄されている時間のほうが長い。

彼の目論見が成功したと言うべきなのだろうか。


「沙和は器用そうに見えて実は不器用で、物事に体当たりして傷ついている」

私の返事を無視して、当たり前のように告げられ戸惑う。

そんな言われ方は初めてで、テーブルの上に置いていた手をギュッと握りしめる。


「どうして……」

「あの日の沙和は酔っていたせいか、悲壮感でいっぱいでそれを隠そうともしていなかった。それなのに再会したら必死で気持ちを押し殺して、気丈に振る舞っていた。そんな沙和を守りたいと強く思った……誰かにそんな思いを抱いたのは初めてだった」

言われた言葉に頭の理解が追いつかない。
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