俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「すまない、沙和」

「大丈夫です。気にしないでください」

「……じゃあ、やっぱりもらっていいか?」

そう言って私の顎を長い指で掬い上げる。


端正な面立ちが近づいて、黒髪が私の額を微かにくすぐる。

その瞬間、彼の唇が私の唇に柔らかく触れた。


驚いて目を見開く。

そっと優しく唇が食まれる。

心が、全身が震える。


キス、されてる?


伏せられた長いまつ毛が視界に映る。

突然の口づけに瞬きすら忘れてしまう。

時間の感覚がわからなくなる。

鼓動がうるさいくらいのリズムを身体中に響かせる。


ゆっくりと唇を離した愁さんが私の瞼、鼻、額、首筋に小さなキスを落とし、最後にまた唇を奪う。

今度はとても長い時間をかけて、呼吸を奪いつくすような甘いキスをされた。

その熱に翻弄されてまともな思考ができなくなり、腰から力が抜けて、支えられていなければ立っていられないほどだ。


「……相変わらず無防備で可愛いな」

不敵に口角を上げる姿は艶やかで、もう心臓が壊れそうだ。

さらに首筋に顔を埋めるようにして耳元で囁かれる。微かな吐息を感じる。


「ちゃんと戸締まりしろよ、それと敬語もやめるように」

キスの衝撃できちんと言葉を紡げない私のつむじに小さなキスを落として、満足そうに踵を返す。


「リハビリ、急すぎる……」

のろのろと施錠した私は玄関先で蹲り、引かない頬の熱をいつまでも抱えていた。
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