俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……そのドレスはあなたが選んだものですか?」

「いえ、板谷社長が選んでくださいました」

こういう場で、さらには元婚者の眼前で、〝愁さん〟と口にしてよいのかわからず、無難な呼び方をした。


私の返答に彼女の顔色がサッと変わる。


「どうしてあなたがその色を……私でさえ身に着けられなかったのに……」

独り言のように呟く声には悲壮感さえ漂っていた。

尋常ではない様子に戸惑う。

虚ろになった視線にはなにも映していないようだ。


「あ、あの大丈夫ですか? どこか休める場所に行きましょうか」

今にも倒れそうなくらいに顔色が悪い辺見さんに、遠慮がちに声をかける。

「……必要ないわ。どうして、私じゃダメなの? どうしてあなたがそこにいるの?」

涙目で睨みつけられ、今までとは真逆の態度に、反応が僅かに遅れる。


どういう、意味?


「今日はお招きありがとう」

途方に暮れかけた時、背後から明るい声が響いた。

課長の時と同じように、腰にそっと添えられた温かくて大きな手の感触に身体からストンと力が抜ける。


「愁く、ん」

大きな目をこぼれ落ちそうになるほど見開いた辺見さんが、その名前を呼ぶ。

目の縁がほんのり赤く染まっているのは涙のせいか、それとも別の感情なのか。


どうやら津田さんが愁さんを呼びに行ってくれていたようだ。
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