俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
自宅に帰りついてドアを閉めた途端、力が抜けた。

トンと玄関先のフローリングの床に崩れ落ちるように座り込んだ。


「……馬鹿みたい」

小さく呟いた声が無人の室内に響く。


本当に馬鹿みたいだ。

愁さんの言葉を鵜呑みにして舞い上がるなんて。


あんなにも素敵な、雲の上の人が私みたいな面倒で可愛げのない女を本気で婚約者にするはずがなかったのに。

ただいいように扱われていただけだ。

ぽたり、と床に落ちた丸い染み。


「……なんで私、泣いてるの」

頬に触れる濡れた感触が悔しい。

「なんでこんなに胸が痛いの……?」


信じたかった。

『本気』と言い張るあの人の気持ちを。


可愛いと言ってくれて嬉しかった。

私の虚勢を見抜いてそのままでいいと言ってくれた。

自信がなくて、いつも気を張ってばかりだった私の重い鎧を外させてくれた。

体裁もなにもなく素直な気持ちを話せたし、心から笑えた。

この人のそばにいたい、もっと知りたいと素直に想った。


なによりも。

あの人は私でさえ気づいていない私を見てくれていた。

当たり前のように靴擦れに気づいてくれた。

今思えばこの時にはすでに心が傾いていた。


自分以外に自分を大切に想って気にかけてくれる人がいる、その事実に、温もりに泣きたくなった。


けれど愁さんにとってはそうではなかった。


正式な婚約者が着るドレスだと教えてももらえず、嘘まで吐かれてしまった。

動揺ひとつしていない彼の態度がつらい。

それは気持ちを向けてもらえていないという証拠のようなもの。
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