俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
帰社の連絡を上司にとったところ、時間も時間なので機密書類はすべてローンセンターから社内書留メール便で送付して、手ぶらで直帰するようにと指示された。

身体も心も疲れ切っていたため、その指示に素直に従った。


後処理を済ませてローンセンターを後にし、地下鉄の駅に向かう途中でふと、斜め前の歩道に視線を向けた。


一組の男女が反対方向から歩いてくるのが見えた。

駅の入り口に踏み出す足が無意識に止まる。


ドクン、と鼓動がひとつ大きな音をたてた。

見てはいけない、と本能的に悟った。

話している内容はもちろんわからないが、手を繋ぎもせず、一定の距離感を保って並んで歩いているふたり。


「……愁さんと、辺見さん……?」


仲睦まじい様子には見えないが、一緒にいる事実に変わりはない。

こぼれ落ちた声は自分のものとは思えないほど弱々しかった。


今すぐ立ち去りなさい、と頭の中でもうひとりの私が必死に警告している。

胸がジクジクと膿んだように疼く。


それなのにこの場所に縫いつけられたように足が動かない。

立ち尽くしたまま、斜め向かい側からどんどん近づいてくる姿を見つめていた。
 
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