俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
辺見さんは深刻な表情を浮かべ、今にも泣きだしそうな様相で、愁さんはとても厳しい表情を貼りつけている。

そんな剣呑な雰囲気にもかかわらず嫌味なくらいにふたりはお似合いだった。


見惚れるほどの容姿を持つ愁さんに劣らない、華々しくも儚い美しさを持つ辺見さん。

通り過ぎる人たちが、どこか憧れにも似た羨望の眼差しを注いでいるのがありありと感じられる。


「ねえ、あのふたり、刺々しい雰囲気だけどずいぶんお似合いねえ」

「本当、美男美女ね。芸能人かなにかかしら?」

「違うんじゃない? あらでも、男性はどこかで見た記憶があるわ」

切れ切れに聞こえてくる声が容赦なく胸に突き刺さる。


避けていた、会いたくなかったのにずっと会いたかった人。

こんなにも胸が苦しいのに、姿を見れて喜びそうになる私は本当に救いがたい。


諦めたはずだった、想いを押し込めたはずだった。

手の届かない人だとわかっていたはずだった。


このふたりがともに在ることが一番いいかたちなのだと理解していたはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。

なぜこれほどまでに悲しいのだろう。

こんな痛みやつらさは今まで経験した記憶がない。


今すぐ立ち去りたいのに、全身が痺れたように苦しくて動けない。

震える手で、せめて声を漏らさないよう自分の口を押さえる。

視界が滲んで周囲の景色が霞む。


その時、向かい側を歩く愁さんの視線がふと動いた。

その綺麗な目が私をとらえた瞬間、大きく見開かれた。
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