俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「いや、離して!」


腕を振りほどこうともがくと背中から強引に抱き込まれた。

伝わる体温に心が震える。


どうして追いかけてくるの。辺見さんをひとりにしていいはずはないのに。


「断る。やっと会えたんだ。話を聞いてくれるまでは絶対に離さない」


乱れた息が耳朶を震わせる。

いつも冷静な彼とは思えない焦燥感の混じった声に驚くが今はそれを受けとめる余裕がない。


「聞きたくない、私にはもう関係ない」

離れようと必死にもがくと、怖いくらいに厳しい目をした愁さんと真正面から向き合う羽目になった。


「……それでも聞いてもらう。俺の話で沙和に関係ないものは、ない」


自身に引き寄せるように力強い片腕が背中に回され、もう片方の手が性急に私の顎を掬い上げ、唇に荒々しくも柔らかなものが触れる。

目の前に迫る綺麗すぎる面立ちに乱れた黒髪。


睨みつけるような漆黒の目に容赦なく射抜かれ、さらに抱え込まれるようにキスをされた。


「な、んで……!」

唇が一瞬離れた隙に息を吸い込んで、胸を力いっぱい押すがびくともしない。


私の抵抗をあざ笑うかのように愁さんは再び強引に唇を奪う。

強く腰に腕を回され、さっきよりも荒々しく食らいつくすかのようなキスが落ちてきて涙が滲む。


呼吸すらままならず背中に痺れにも似た感覚が走る。

グッと押しつけられた身体には隙間がなく、何度も角度を変えてなにかを訴えるように口づけられる。
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