俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……弱みにつけ込んだ自覚はあるし、卑怯な真似をしていると理解していた。それでもどうしても手放したくなかった。片想いの相手にもほかの男にも想いを向けてほしくなかったんだ……俺だけの沙和になってほしかった」

唐突に向けられた強い想いに戸惑う。

だけどそれは泣きたいくらいに嬉しいものだった。


ずっとこの人は完璧だと思っていた。

板谷ホールディングスの若き優秀な社長、雲の上の皆の憧れの王子様。

分不相応な手の届かない人だと感じていた。


だけど初めて見せてくれた迷いのある姿に、吐き出してくれた気持ちに、この人も同じ想いを少なからず抱いてくれていたのだと思えた。

遠いと思っていた心の距離が少し近づいた気がした。


涙の残る目で見上げた先に佇むのは、大切で愛しいたったひとりの人。


「……私も不安だった。愁さんは辺見さんを忘れるためにリハビリなんて言い出したと思ってた。だからなにも教えてくれなかったんだって……ふたりが並んで歩いている姿を見て今までもこうやって会っていたのかって……」

「そんなわけない。言っただろ? 千奈さんには特別な気持ちはないし、そもそもなにも始まっていない。突然来社されてどうしようもなかったんだ。不安にさせて誤解させて悪かった」

申し訳なさそうに言われて新たな涙が頬を濡らす。


その瞬間、壊れ物のようにそっと広い胸に抱え込まれ、愁さんの速い鼓動が耳に届いた。

この胸の中はどうしてこんなにも切なくて愛しいのだろう。
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