俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
そのままの体勢で愁さんは穏やかに説明してくれた。


夕方に来社した辺見さんをそのまま放り出すわけにもいかず、立花さんの会社へ送っていく途中だったという。

運悪く、立花さんの自社ビル前が工事で通行止めとなり渋滞していた。

そのため近くで車を降りて徒歩で送り届けていたそうだ。

まさにその場で私たちは鉢合わせてしまったというわけだ。


「このまま沙和を抱きしめていたいが、千奈さんを置いてきてしまった」

軽く眉間に皺を寄せて愁さんが言う。


そうだ、辺見さんをきちんと送り届けなくてはならない。


「ご、ごめんなさい、私……」

自分のことしか考えていなかったと後悔の念が押し寄せる。

「なんで沙和が謝る? 俺はここで沙和に会えて、本心が聞けて嬉しかった」


そう言って私を甘く胸に抱え込んだまま、スマートフォンをスーツのポケットから取り出して津田さんに連絡を取り始めた。

私と遭遇した件も伝え、今日は会社に戻らないと話していた。

その姿はいつもと変わらない優秀な社長の態度そのものだった。


「……ああ、そういうわけだから千奈さんを頼む」

用件を秘書に伝え終え、スマートフォンをポケットに戻して私に向き直る。


「辺見さんのところに戻らなくていいの?」

正直、まだ今は彼女に平常心で会える気がしない。

かといって愁さんとふたりきりで会ってほしくない。

そんな風に考えてしまう私は本当に心が狭い。


「俺が戻る必要はない。津田がきちんと送り届ける。それに、これ以上沙和と離れたくない」

まるで私の心中を呼んだかのようなセリフに、胸がギュッと締めつけられる。
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