俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
それからの愁さんの行動は素早かった。


ここは外で、誰の目があるかわからないし、なにより私を離したくない、とそのままの体勢で言われた。

確かに周囲の目もあり恥ずかしいし、私は仕事帰りそのものの恰好だ。


「沙和、話もあるし今日はずっと俺と過ごそう」

そう言って、タクシーで自宅まで送ってくれた彼に宿泊準備を促された。


その意味をわからないわけではない。

それでも迷いはなかった。


今日は金曜日、私の職業はよっぽどのことがない限り、暦通りの勤務体系だ。

愁さんは土曜日の昼間から仕事があるらしく、それまで一緒に過ごしたいと率直に言われた。


準備を整え、待機してもらっていたタクシーに乗り込んだ。

行き先を聞いておらず、尋ねると連れて行きたい場所があると言われた。

自宅に向かうわけではないらしい。


「引っ越してくる?」

当たり前のようにさらりと聞かれた。

「え……?」

言われた意味をすぐには理解できず、瞬きを繰り返すと妖艶な眼差しで見つめられた。


「俺の家で一緒に暮らさないか? ……これ以上沙和と離れていたくないんだ」

「あの、でも突然すぎて……」


気持ちを確認しあった途端に引っ越しって……どれだけ行動的なの?


この人が有能だと言われる片鱗を垣間見た気がする。

「返事は今すぐじゃなくていいが、真剣に考えておいてほしい」

そう告げて、頬に長い指で触れてくる。

火照った耳を意識しつつ小さく頷くと、満足そうに眦を下げた。


「沙和に関しては短気だから早めに決断してほしい。もちろん引っ越す前提で」

……肯定以外の逃げ道がない気がする。
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