俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
ああ、もう。

振り回されているのは私だけみたいだ。


フォークを差し出されて、口を開けるように促され、羞恥で泣きそうになったけれど、至極満足そうな愁さんにこれはこれでいいのかな、と思ってしまった。

この年齢になって誰かに食べさせてもらうとは思いもしなかったけれど。

恥ずかしすぎて、こんな姿は誰にも見せられない。


食事を終えてひと段落ついたところで、改めて謝罪された。

「本当に申し訳なかった」

周囲に食後のコーヒーの香ばしい香りが漂う。


「もういいの。私のほうこそ、勘違いして逃げてしまって、ごめんなさい」

最初からきちんと向き合って話をすればよかった。

気持ちを素直に伝えて尋ねればよかった。


「沙和はなにも知らなかったんだから、謝る必要はない」

テーブルの上に置いた私の手が、骨ばった大きな手に包まれる。

その温もりに後押しされるように小さく首を横に振った。


「私は今まで“正しい”と世間一般で言われている道を守るのが一番大事だと思ってた。それ以外の方法を知らなくて、そこから外れるのが怖かった。でも愁さんに出会ってそうじゃないって知ったの」

愁さんは口を挟むでもなく、ただ黙って先を促してくれる。

「出会いも再会も、すべてが突然で私の中の『正しい』『常識』を一気に覆されて、どうしていいかわからなくなった。しっかりしなくちゃと思えば思うほど『しっかり』の意味がわからなくなって混乱して、怖くなった」


「沙和はしっかりっていうより、我慢強い努力家じゃないか?」

優しい双眸が真っ直ぐに私をとらえる。


どうしてこの人は私の心の奥をこんなにもあっさり見破るのだろう。
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