俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
溢れ出した涙を止められずに唇を震わせる。


入社して以来、出来のよい同期に負けないよう追いつくように強くあらねばといつも考えていた。

誰に強制されたわけでもないけれど、皆の期待や視線が怖くて、ずっとそうしていた。

誰かに甘えるなんて苦手だったのに、この人はそれをやすやすと越えてきた。


「愁さんの全部が好きです。仕事に真摯な姿勢も、誠実で自分に厳しくて温かいところ、優しいところも。そしてなによりも私を大事にしてくれて本当に嬉しいの」

込み上げる嗚咽の中で、必死に伝える。


あの日、庭園でこの人に出会ったおかげで私の運命は変わったのだから。


「それは俺のセリフだな」

甘い声で囁いて、愁さんは唇に羽のようなキスを落とす。


「俺に沙和を独占させてほしい」


そう言って立ち上がった愁さんは私に手を差し出す。

真剣な目が私を見据えて離さない。


ゴクリと息を呑んで差し出された手に、震える自分のものを重ねる。

握り返された手を優しく引き、歩きだす。


案内された部屋は寝室で橙色の柔らかな間接照明が灯されていた。


「……これから先、ずっと俺だけのものでいて」


私のつむじに軽いキスをして、ゆっくりと寝室のドアを閉めた彼は私の瞼、頬、額に順番にキスの雨を降らせる。

首筋から鎖骨まで柔らかな唇が触れていく。

最後に唇に長いキスが落とされた。


それが甘い時間の始まりだった。

シーツの海に沈んで、誰かの腕に守られて眠る幸せを心の底から感じた。
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