俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「沙和、この方は? お知り合い?」

心配そうな様子の親友に大丈夫、と小さく首を横に振る。

「辺見さんと仰るの。今日の教室はお休みするって先生に伝えてもらえない? 一緒に行けなくてごめんね」

敏いすずはある程度の状況を読み取ってくれたようで、戸惑いながらも渋々了承してくれた。

ただ、すれ違いざまに小声で頼子さんには伝えるわよ、と言った。


「どうぞ、乗ってちょうだい。大丈夫よ、うちの会社の車だから。あなたとお話をしたいだけなの。危害をくわえるような真似は絶対にしないわ」

そう口にする辺見さんの目には翳りがなく、私は後部座席に乗り込み、隣には彼女が座った。


それでも念のため、ジャケットのポケットにスマートフォンを忍ばせた。

失礼かもしれないけれど、今日の辺見さんの様子は以前に比べるとどこか異質だった。


「……どこに向かっているのですか?」

「私がよく行くカフェよ。落ち着いて話せる場所に行きたいから。どこかに閉じ込めたりしないから安心して」

淡々とした声で返答され、それ以降は口を閉じてしまった。


今日の彼女は柔らかさも穏やかさもまったくない。

切羽詰まった様子で、目には焦燥感と寂寥感が滲んでいた。


眠れていないのか、パーティーの日には輝くほどに綺麗だった肌はくすんでいて、目の下にはうっすら隈が見えた。


夜の帳が下りた街と流れていく景色を見つめていると、見慣れた建物が見えた。

どうやらここは美術館の近くのようだ。
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