俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……婚約に関する話を立花さんとしていたんだ」

ぼそりと愁さんが言う。

カフェを出てどこかで落ち着いて話そうと、私たちは近くの美術館に向かっていた。


秋に向かう風が髪をさらう。

真夏の夜ほど湿度のないそれは少し心地よく、夜も更けてきたせいか人気は少なくなっていた。


彼が慣れた仕草で美術館の門扉を開けた。

夜の庭園を訪れたのは二度目だ。

一度目は彼に出会った日。

そして二度目は今日。


ゆっくりと庭園奥のベンチへ向かい、並んで腰をおろした。

頭上には、月が輝いていた。


「きちんと説明できなくて悪かった。立花さんと千奈さんの個人的な話でもあったから、少し収まりがついたら話そうと考えていたんだ」

辺見さんから相談を受けていたせいもあり、愁さんは立花さんと連絡を取り合っていたらしい。

元々ふたりは古くからの知り合いだという。

けれどお互いに多忙な身で、なかなか話す時間もままならず、そのうえ愁さんには海外出張も重なっていた。


「俺の配慮不足で巻き込んですまなかった……不安にさせただろ?」

心配そうに問われ、大きく手を振って否定した。

「巻き込まれたなんて思ってない。それに私の気持ちを考えて話そうとしてくれたんでしょう?」


辺見さんとの件を話してもらえない状態を邪推しなかったかと言われると、否定はできない狭量な自分がいるが。
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