俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
9.「これからも大切にする」
「ねえ、あなたたちまだ結婚しないの?」

「頼子さん、いくらなんでも直接的すぎますよ」

なだめるように千奈さんが頼子さんを諭す。


愁さんが上海から帰国して半年以上が経った。

季節は移ろいですっかり春めいてきた四月半ば。


仕事が休みの今日、私は美術館奥の応接室にいた。

淡いベージュの壁紙にアンティーク調の応接セットが置かれた室内は、落ち着いた柔らかな雰囲気が漂う。


私の真向かいのソファに座る頼子さんは優雅な仕草でカップを持ち、温かな紅茶に口をつけている。

頼子さんの左隣には千奈さんが腰かけて、書類に目を通している。


ほんの数カ月前では考えられなかった光景に小さく口元を綻ばせる。


あの日――お互いの誤解をといて気持ちを吐露しあったのは立花さんと千奈さんだけではなかった。

立花さんとの話し合いを終えた後、千奈さんは愁さんにことわった上で私に会いに来てくれた。

そしてこれまでの行いについて改めて謝罪された。


謝ってもらう必要はないと何度も伝えたけれど、気が済まないからと真剣な態度で頭を下げられた。

その姿はとても誠実で、愁さんがずっと友人関係を続けている理由がわかった気がした。
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