俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
『沙和、俺から説明させてほしい』


言い淀む私をやんわりと制して、愁さんが口を開いた。

『私としては今すぐにでも結婚のお許しをいただきたいと思っています。生意気な言い方になってしまいますが、沙和さんの気持ちをなによりも優先させていただきたいのです。無理強いをしたくはありません』

口調には迷いがなく、愁さんの想いの深さに胸が詰まった。


『ただ私にこらえ性がないので、一年以内には必ず入籍していただこうと思っています』

さらりと当たり前のように言い、甘やかに口角を上げる。


……前言撤回、窮地に陥っている気がする。


『あらあら、それはとてもいい考えね』

呆気にとられる私を横目に、母が間延びした声で返答する。

『沙和はそうでもしないと、あれこれ考えすぎちゃって尻込みするもの。しっかり結婚の時期まで明言してくださるなんて素晴らしいわ。これで私たちが心配する理由はなにもないわね、お父さん、雅也?』

『あ、ああ……』

渋面を浮かべて言い淀む父に、母は満足そうな笑みを浮かべる。

父はなんだかんだ言っても母には敵わないのだ。

弟は仕方ないな、と肩を竦めていた。


『板谷さん、どうか娘をよろしくお願いしますね』

『はい、もちろんです。私のすべてで幸せにします』

愁さんの返答に満足そうに頷く母とは対照的に、父はなぜか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

雅也は少し安心したように白い歯を見せた。


……母と愁さんはどうやらとても気が合いそうだ。


同棲の許しをもらいにきたはずなのに、いつのまにか結婚の挨拶予約までされてしまって居たたまれない。

だけど両親と弟に迷いなく言い切ってくれた愁さんの姿はとても嬉しくて、今でも脳裏に焼きついている。
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