俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
当社の重要取引先のひとつなのだが、会長や社長は超がつくほど多忙な上、他社からの面会希望は山のごとくあるらしい。

そのためアポイントメントはほぼ取れず、賀詞交換会にさえ来ていただけないと先輩の営業担当者が嘆いていた。


現在七十代半ばの城崎さんは、過去に板谷ホールディングスでの勤務経験があるらしい。

てっきり造園業一筋だと思っていたので驚いた。

造園に関しては、祖父とともに若かりし頃に学んだと教えられた。


『あいつほどの腕は私にはないが、趣味の延長のようなかたちでずっと造園にはかかわってきたんだよ』

目を細めて話す、城崎さんの穏やかな声を今もよく覚えている。

祖父の件だけでも驚きなのに、自宅に近い場所で取引先とのご縁を知り、企業の意外な一面を見つけて嬉しくなった。


『ここは所有者を公にはしていないから、沙和ちゃんの会社で知っている人はごく少数なんだよ』

言われてみれば、我が社でこの美術館が話題に上った記憶はない。

『そんな重要な情報を教えていただいてよかったのですか?』

心配になって城崎さんに尋ねると、問題ないと一蹴された。

『ここを沙和ちゃんはとても大切に思ってくれているからね』

もちろんこの件は会社にも誰にも口外していない。


城崎さんは幼い頃の呼び方そのままに沙和ちゃん、と親しみを込めて呼んでくれる。

気恥ずかしさはあるが、とても温かみのある声にいつも嬉しくなる。
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