俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
その週の日曜日。


頼子さんと約束をしたわけではないけれど、気になって庭園に足を運んだ。

午後三時を過ぎ、幾人かがのんびりと散歩していた。

出入り口から一番奥、管理人室の手前には屋根つきのベンチスペースもある。


「沙和ちゃん!」

ブルーデニムにレッドブラウンの大きめブラウスというラフな装いの女性に名前を呼ばれた。


「頼子さん、来られていたんですね」

庭園の入り口近くに佇む頼子さんに、手を振って近づく。


「おひとりですか?」

「さっきまで夫と娘がいたんだけど、娘がはしゃぎすぎて眠っちゃったの。今はふたりとも駐車場に停めた車の中にいるわ。久しぶりにここに来たのが嬉しかったみたい」

頼子さんがニコニコ表情を崩して言う。

茶色の長い、艶やかな髪をリボンクリップでまとめている。

「そうなんですか」

相槌を打ってから、その言葉に違和感を持つ。


今、頼子さん、久しぶりって言った? 

以前からこの場所を知っていたの?


私の疑問に気づいたのか、頼子さんがクスリと声を漏らす。


「この美術館を大切に思ってくれてありがとう。ここ、私の実家の持ち物なの」

さらりとなんでもないように言った後、内緒の話なんだけどね、と小声で付け足される。
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