俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
瞬時にぐるりと目の前の世界が反転する。


トサッという音とともに背中が固いものにぶつかる感触。

肩にかけていたはずのバッグがずるりと足元に落ちていく。

幸いにもスマートフォンはポケットから飛び出さなかった。


「……お前、誰だ?」

一瞬の出来事に驚いて、すぐに反応を返せない。


あっという間に入れ替わった体勢。

目を閉じて横たわっていたはずの男性が頭上から見下ろしてくる。

長い両腕に身体が囲われた状態で身動きがとれない。

今にも私の上に覆いかぶさってきそうだ。


本能的な恐怖で身体がすくむ。

それでも指一本動かせそうにないこの状況では、助けなんて呼べそうにもない。


見上げた私の目に映る彼は、やはり整った容貌をしていた。

綺麗なアーモンド型を描く二重の目を縁取る長いまつ毛が頬に影を落とす。

漆黒の瞳は怖いくらいに冷え冷えとしている。


「答えろ。どうやってここに入った? 返答次第では警察を呼ぶ」

眼差しに負けないくらい冷たい声が、容赦ない言葉を浴びせる。

「あ、あの……」

睨みつけてくる目に鋭さが増す。

返事をしなきゃと思うのに、声がうまく出てこない。
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