俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……東京営業部の同期の女性と婚約したんですって。半年後に挙式されるそうよ」

親友が硬い声で教えてくれた。


先週、濱田課長が上司に報告し、今朝明らかにされたという。

おめでたいニュースのため、あっという間に他部署にも広まったそうだ。


手の中で無意識に握りしめていた資料を受け取った親友が、背中をさすってくれる。

誰もふたりの交際については気づいていなかったみたい、と付け足す声がずいぶん遠くに感じられる。


「……戻る、ね」

「沙和、大丈夫?」

「ごめん、すず。心配かけて……」

やっとの思いで出した声は思った以上に掠れていた。

喉がカラカラに渇いていく。


すずの目には心配の色が浮かんでいる。

私を気にかけてくれているとわかるのに、いつものように笑みを返せない。

小さく口の端を無理やり持ち上げて踵を返す。


上ってきたばかりの階段を下り始める。

誰もいない空間がありがたかった。

足が鉛のように重い。

胸が張り裂けそうに痛い、ジクジクと治らない大きな傷口が心の真ん中にあいているようだ。


『心の中でどんなに想っていても、告白しなきゃ気持ちは一生伝わらないわよ』

『自分から行動しないとなにも変わらないわ』


何度もすずに忠告されていたのに。

一歩が踏み出せずに、ただ見ているだけだった。

そんな私に、一端の失恋を語る資格はない。


それでもやはり悲しい。

課長の隣に立つ自分の姿を、もう夢見ることすらできない。
< 42 / 227 >

この作品をシェア

pagetop