俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
自分の席に戻ったけれど、なにをして過ごしていたのかほとんど覚えていない。

無心で機械的に業務をこなしていた気がする。


仕事に没頭しているほうが余計な考えを巡らせずに済む。

あまりの顔色の悪さに周囲に心配され、早退を促されたけれど、さすがに失恋が理由で帰宅はできずに定時で退勤した。


今日が金曜日なのがありがたかった。

帰宅して思う存分泣いたとしても、翌日の目の腫れ具合を心配しなくて済む。


帰り道にすずに改めてメッセージを送った。

泊まりにおいで、と優しい誘いをくれたけれど断った。

毎週土曜日はデートの予定がある親友の邪魔をするわけにはいかない。

ただでさえ、多忙な恋人になかなか会えないと普段から嘆いているのだから。


ぼんやりと電車の車窓から流れゆく景色を見つめる。

闇が落ちた外の世界に映えるネオン、見慣れた風景はいつもとなにも変わらないのに、この脱力感はなんだろう。


片想いの間、毎日無意識に課長に想いを馳せていた。

それも今日で終わりだ。

二度と叶わない恋を嘆いてもただ虚しいだけだ。


……このまま帰りたくないな。


改札を出て、自宅マンション近くまで足を進めた時、ふとそう思った。

空を見上げると暗い私の心とは裏腹に、明るく瞬く星が見えた。

朝の天気とは大違いだ。
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