俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「ご、ご多忙の中、わざわざありがとうございます」


用件を済ませて急いで退散しようと考え、早口で言う。

手をさりげなくほどこうとするけれどなぜか離してもらえない。


「……このピアス、そんなに大事なのか?」

もう片方の社長の手の中には、見覚えのあるピアスがあった。

問われて頷くと、綺麗な目が冷たく細められた。


「……へえ、妬けるな」

怯みそうになるくらいの低い声が、耳朶をそっと震わせる。

私の左手首から手を離し、頬に触れる。

男性らしい骨ばった指の感触にビクリと肩が上がる。


「え?」

「過去の男からもらったものを、ずっと未練たらしく持ってるのか?」

彼の行動も、言われている意味もわからずに瞬きをする。

囁くような声にはなぜか不機嫌さが混じっている。


まさか過去の彼氏に贈られたと思われてる? なんでそんな誤解を?


「……いえ、そのピアスは城崎さんに……御社が管理されている美術館の館長に誕生日プレゼントに昨年いただいたものですが……」

「館長から?」

「いただく理由がないので何度もご辞退したんですが……日頃のお礼だともったいない言葉までくださって……」

焦りながら事情を説明する。

とにかく誤解はといておかないといけない。


某有名高級ジュエリーブランドのピアスは何度も辞退したのだが、一向に引いてくださらず、丁重にお礼を申し上げていただいたのだ。
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