俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「……まったくあの人、いい歳をして一体なにをしてるんだよ」

サラサラの髪をかき上げながらイラ立ちも露わな板谷社長に、慌てて弁明する。

「あの、贈り主については口外しない約束でしたので、申し訳ありません」

「いや、違う……邪推をしてすまなかった。そうか……よりによって館長か……」

独り言のように言って片手で口元を覆う彼の耳が、心なしか赤い。


「……館長につけてもらったのか?」

「はい?」

「ピアス」


長い人差し指がトン、と軽く私の右耳に触れる。

今日はなんの装飾もつけていない。

ほんの一瞬の接触なのにピリッと電流が走ったように感じてしまう。

鼓動がひとつ、大きく跳ねた。


一体なにを言い出すの?


「ま、まさか、自分でつけました。誰かにつけてもらったことなんてありません!」

「へえ、じゃあ俺が初めての相手だな」


……変な言い方をしないでほしい。


ふわりと貴公子のごとく柔らかな弧を口元に描いて、右耳にピアスをつけようとする。

理解できない行動に慌ててしまう。


「あ、あとで自分でつけますから」

「動くなよ、落とすぞ?」

有無を言わさず屈みこまれる。

そんな言い方は卑怯だ。

こんな場所でピアスが落下したら見つけるのが大変だし、身動きができなくなる。


近すぎる距離に耳は燃えるように熱く、呼吸すら苦しくなっていく。
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