俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「そ、そうなの、ありがとう……」

気の利く後輩の計らいに、感謝の言葉以外見当たらない。


再会に気を取られていて注意力が欠落していた。

自身が犯した失態に後悔ばかりが襲ってくる。


「では私は失礼しますね……沙和さん、この間は本当に悲しそうにされていたのでよかったです」

心優しい由真ちゃんはそう言って、去っていった。

これが本当なら心底喜ぶところだが今は頭を抱えてしまう。


「優しい同僚でよかったな」

沈黙を破ったご機嫌な声の主を、横から見上げる。

「どうしてあんな嘘を言うんですか? 誤解されてしまったじゃないですか!」

きつい声を出す私をものともせずに、楽しそうに口角を上げる。

そんな姿さえ色気があるのだから腹立たしい。

「俺はまったく困らない。親族からの面倒な縁談を断る口実ができて願ったりかなったりだ」

「だからって……」

「浦部さんも片想いの相手が誰か詮索されなくて済むだろ。お互いにとっていい話じゃないか?」

その発言にグッと押し黙る。

悔しいけれどその通りだ。


「……板谷社長と私では立場が違いすぎて、現実味がありません」

ただの取引銀行の一女性社員と日本を代表する大企業の社長。

影響力も立ち位置も違いすぎる。

「そんなに堅苦しく考える必要があるのか? 俺は浦部さんを気に入ってる。そうでなかったら、あの日わざわざ介抱したりせずに、誰かに手当てを頼んで帰っている」
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