トリップコーヒー
ボクの名前は小早川拓海、テンプレートに普通な男子高校生だ。
 そして、目の前には――――


「猫ぉぉぉぉぉぉぉおおお゛お゛!!!」
「ミャアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 テンプレートな変質者がいた。しかも女。冬なのにタンクトップにショートパンツ。何この人。
 さっきから猫……特に黒猫を執拗に追いかけまわしている。おかげで身体中に引っかき傷、あまり深くはなさそうだけどカサブタが出来たらすごく痒くて辛いやつ。警察呼んだ方がいいのかな?
 でも、まずは


「猫に乱暴するのはやめてください!」
「んえ!?」


 猫がいじめられているのを放っておくわけにはいかない。ボクは猫好きなんだ。
 ボクに注意された女の人は不思議そうにこっちを見つめると、目を見開いて言った。


「ねぇ君手伝ってよ!!」
「……え?」


 □◆□◆□◆□◆

 とりあえず喫茶店兼自宅に移動した。ボクの家は一階が喫茶店で二階に生活スペースがある。元々お母さんが趣味で始めたことがきっかけで、今は主婦たちが集まって割と人気だったりする。ちなみにこの時間帯はバーゲンセールで店内は誰もいない。


「さっきはありがとねー! おかげで黒猫を捕まえられたよ!!」


 女の人の名前はサチコ、名字は教えてくれなかった。
 サチコさんが言うには、どうしても黒猫が必要らしい。でも理由は教えてくれない。


「言ったらヤバイから! あたし捕まっちゃう!!」とのこと。


 今どき用事の内容を教えるだけで捕まるとか映画くらいでしか見たことがない。もしかして(頭が)ヤバイ人?それとも(犯罪的に)ヤバイ人?どちらにしても関わりたくない。でも捕まるような人には見えないんだよな。
 捕まえた黒猫を興味津々に見つめるサチコさん。肩くらいに切り揃えられた黒いショートカットと明るい茶色目、テンションも高めだし、本当に捕まりそうなら普通は猫を捕まえたりとかしないよな、目立つし、危うく警察に電話かけそうだったし。


「ねぇねぇ! もうちょこっとだけ手伝ってほしいんだけどさ!!」
「まだ何かやるんですか?」


 この言葉を肯定と取ったのか、サチコさんは、紙に書かれたメモをおもむろに取り出した。そこに書いてあるのは


黒い猫


石臼?
濾紙ろし
白い粉
――――
――――


「もしかしてコーヒー?」
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