さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
⚖️ Chapter 2
わたしは、ともに弁護士の職に就く両親の下に生まれた。
多数の勤務弁護士を抱える進藤綜合法律事務所を率いて、大企業を相手に経済関係の法務処理に特化している(要するに、カネにならない仕事以外は引き受けない)父・衛と……
弁護士法人ルミエール(つい最近、君島みき子法律事務所から変更)を営み、女性が社会や家庭の中で法律の力が必要な際に「支え」となることに特化している(最近は「人権派女性弁護士」としてテレビのワイドショーの「コメンテーター」なるものにも挑戦している)母・樹子とでは……
かつて若気の至りで学生結婚したらしいが、どう足掻いてもうまくいくはずがなかった。
わたしが小学校の低学年のとき、離婚した。
「仕事命」でわたしをこの世に産み落としたこと以外にはほとんど母親らしいことをしてこなかったのに、母は「やっぱり子どもは母親が育ててあげないとかわいそう」と「謎の自信」でわたしを引き取る気満々だった。
だが、いかんせんわたしの「胃袋」は同居していた父方の祖母にがっつり掴まれていた。
なので、なによりわたし自身が(まだアンダーティーンだったにもかかわらず、母の壊滅的な料理の腕では自身の生命維持に支障をきたすと思って)きっぱりと「父方」を望んだため、親権は父が獲得した。
(もちろん、母とは好きなときに会えることが担保されたし、同じ弁護士という職に就いた現在はごくたまにではあるが母の方の仕事も手伝っている)
その後、家事とわたしの面倒をみていた祖母が癌で急逝したこともあって(祖父はすでに他界)父は離婚後に交際していた冬美さんと再婚した。
彼女は当時父の職場で事務員として働いていたが、結婚後は家庭に入った。
それから、わたしとは一回り違う異母弟・至公が生まれた。
(ちなみに、わたしは「光彩奪目」弟は「至公至平」から父が名付けたらしいが、わたしも弟も未だかつて初対面の人から正しく「ありさ」「よしゆき」と読んでもらったためしがない)
母の方も事実婚という形ではあるが、うんと歳下のパートナー及川さんと一緒に住んでいる。
(何の仕事をしている男なのかよくわからないが、すこぶる料理の上手な人で家事全般を引き受けている)