一樹君の恋人は天使なんです

 そんな一樹を、忍はそっと抱きしめた。


「ちょ…何だよ…」

「随分と、こうしていなかったじゃないか」

「何言ってんだよ、俺はもう大人だぜ? 30過ぎて…親に抱きしめて欲しいなんて…」

「何を言っているんだ。いくつになっても、親から見えれば子供は小さな時のままだよ。こうして抱きしめると、小さい頃の一樹を思い出すよ。一樹は、父さんの子供の頃とそっくりだったから。一樹の気持ちは、よく分かったんだ」

「…何言ってんだよ。…父さんが、俺みたいなわけないじゃん」


 そっと身体を離して、忍は一樹を見つめた。


「話したことはなかったが、父さんは子供の頃。ずっと、お爺さんに素直になれなくて反抗ばかりしていたんだ」

「え? …」


「お爺さんとは、ずっと10年離れていた。10年経過して、会えても。お爺さんはすぐに受け入れてくれたが、なんとなくどこか素直になれなくてな。きっと、甘えたかったんだと思う。だから、一樹の気持ちが手に取るように分かった」


「父さん…」


 忍の言葉が胸に響いてきて、一樹の目が潤んできた。


「我慢ばかりさせて、ごめんな」

「…いや…そんなことは…」


「お前が立派な弁護士になってくれた事、父さんは誇りに思っている。お母さんだって、とても喜んでいるぞ。同じ道を進んでくれて、嬉しいって言っていた」

「…こんな俺でも? 」

「全く、お前はお母さんにそっくりだな。お母さんも昔はずっと、自分の事を「こんな私」って言っていた。お前は、完璧だ! 有難うな、来てくれて。お前も夏樹も、一緒に来てくれて本当に感謝しているよ」


 胸がいっぱいで、一樹は何も言葉が返せなかった。

 ただ頷くだけで精いっぱいだった。

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