一樹君の恋人は天使なんです

 彼女の突然死に、悲しみで押しつぶされそうになっていた一樹だが、とにかく弁護士の道を目指すために必死になった。

 そして「もう誰も好きなんてならない。面倒だ」と自分に言い聞かせてきた。

 そう思わないと悲しみに押しつぶされてしまいそうで、怖かったのだ。



 弁護士になって日本を離れていたのも、彼女を思い出したくなかったのもある。

 

 しかし日本に呼ばれて帰ってきてしまった一樹。

 考えは変わらず「女は面倒だ。誰とも付き合わない」と一樹はずっと言っている。



 しかし、悠に同じ黒い影を見てしまい。

 一樹の気持ちは揺れ動いていた。

 

 




 深夜の丑三つ時。


 誰もいない公園。

 街灯の灯りだけがついている。


 大きな大木のてっぺんに人影が見える。


 心地良い風が吹いている大木のてっぺん。


 そこにいたのは悠だった。


 仕事帰りの恰好のまま、悠はてっぺんで空を見上げている。


「…帰りたいって思うときがあるなぁ…。帰れないって、分かっているけど。…ゴホッ…ゴホッ…」


 何度か咳き込む悠は、とても青白い顔をしている。


「…これも自業自得。…追いかけてきたのに…こんなに傍に居ても、辛いんだね。…」


 空を見上げて悠は悲しげに目を細めた。


「優しくされると辛いから…。去ってゆくしかないかな…。追いかけてきたんだけど…」

 
 ポケットから綺麗な水晶を取り出し、月の光に照らしてみる悠。


 水晶には綺麗な月が映し出され輝いている。



(ユウリ…)

 どこからともなく、綺麗な声が聞こえてきた。


 悠は驚いて周りを見た。


(ユウリ。久しぶりですね)


 もう一度声がして、とても綺麗な女性が現れた。


 金色の長い髪、雪のように白い肌、ほっそりとした面長の顔に綺麗な切れ長の目、優しい口元。

 清楚な白い透明感のある、襟元が大きく開いた踝までの長いドレスを身にまとっている女性。

 
「…お、お母様? …」


 悠が驚いて尋ねた。
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