一樹君の恋人は天使なんです
(ユウリ。やっと連絡が取れましたね)
優しい笑みを向けてくれる女性。
この女性は悠の実の母ナーディと言う。
ナーディは異世界の者で、天使が住んでいる天空界の女王である。
(心配していましたよ。貴女がいなくなってもう、10年です。人間の世界にはなれましたか?)
「は、はい…なんとか…」
(そう、それは何よりです。それで、目的は果たせたのですか? )
「え? 」
(私が知らなかったと思うのですか? 貴女が、人間の男性に恋をしていることくらい。気づいていましたよ)
知っていたの? 気づかれないようにしていたのに…。
ちょっと恥ずかしそうに、悠は目を伏せた。
(顔色がよくありませんね、体のほうはよいのですか? )
「はい…大丈夫です…」
(それなら良いのですが。まだ、戻る気にはなりませんか? 天空界に)
「戻れません。私は堕天使…悪魔と同じですから…」
ナーディはじっと悠を見つめた。
(お父様はもう、貴女をお許しになっています。なので、いつでも戻って来ていいと言っていますよ)
「本当ですか? 」
(ええ。人間の世界に、未練がなければ。いつでも戻って来ていいのですよ)
そっか…もどってもいいんだ…そのほうが楽かもしれない…。
なんとなく悠は気持ちが楽になったのを感じた。
(戻る気になったら、いつでもその水晶で私を呼びなさい)
「…分かりました」
(あまり無理をしないようにね)
「はい」
スーッと光が消えて、辺りが元に戻った。
悠は水晶を見つめてそっと微笑んだ。