一樹君の恋人は天使なんです

 買ってきたお茶を飲みながら、悠はなんとなく胸に痛みを感じていた。

 病の苦しさではなく、心の痛み…。


 どうして傷つくの? と、悠は自分い問いかけてみた。


 でも…関わってはいけない人だから…。

 悠は自分にそう言い聞かせた。



 誰も来ない木のてっぺんで、悠は夜空を見上げていた…。







 翌日。


 いつものように悠は仕事をしている。


「末森君」

 仕事をしている悠に、京香が話しかけてきた。

「ねぇ末森君。ちょっと、いい? 」

「なんですか? 」

「ちょっと来て」


 そっと手を掴まれて、事務所の外に連れていかれた悠。


 

 誰もいない休憩室。

 京香は色っぽ目で悠を見ている。


「ねぇ末森君。昨日、見たでしょう? 私と所長が、抱き合っているところ」


 思い出したくないことを…平気で聞いてくるんだ、この人。


 黙ったまま、悠は視線を落とした。


「その顔は見ちゃったんだ。まっいいか、いずれは分かる事だから」

 
 いずれ分かる?
 なんの事だろう…。


「私、所長とはずっと付き合っているの。アメリカにいた時からね」


 付き合っている? 
 そう言えば、この人はアメリカから帰国したって言っていたなぁ…。


「所長って、あんな性格だから。表向きは「女なんか面倒だ」って言っているでしょう? あれはね、わざと言っているの。他の女を寄せ付けないためにね」


 そうなんだ…でも、本気で言っているように聞こえたけど…。


「私と所長の関係は公にできないから、資料室で密会しているの。めったに人は来ないし、密会には良い場所でしょう? 週末には、所長は私の家に泊りに来てくれるし、私も所長の家に泊りに行って。半分は同棲しているようなものなの」


 …なんか…変な感じ。

 悠は京香の話しにどこか違和感を感じた。
 

「あの…どうして、自分に話をするのですか? 」


 ん? と、京香は悠を見た。
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