一樹君の恋人は天使なんです
ちょっと怪しく笑いを浮かべて一樹を見た。
「…昨日、末森君。やっぱり見ていたわ、私と所長が抱き合っているところ」
「はぁ? 」
「本人に確認したの。そしたら見ていたって言っていたわ。でも、なんとも思わないし誰にも話す気はないって言っていたわ」
「わざわざ何で確かめたりするんだ? 」
「だって…」
一樹に歩み寄り、京香はそっと一樹の首に腕を回した。
「言われたら、ややこしいじゃない。…密会も、できなくなるし」
「密会? 」
「そう、密会。2人だけの時間」
「何を言っているんだ? 」
「…末森君。なんだか、傷ついている目をしていたけど。どうしてかしら? 」
「お前が何か言ったんじゃないのか? 」
「別に…何も言ってないけど? 」
そっと一樹から離れて、京香は色っぽく髪を耳にかけた。
「…貴方に相応しいのは、私だけでしょう? 」
「何のことだ? 」
「だって、貴方はあの宗田ホールディングの社長の息子よ。あの大企業の息子の相手ができるのは、この私だけでしょう? 」
「親の会社と俺は別だ。何も関係ない」
「でも、貴方だって一流の弁護士よ。どこの人間だか分からない人と、一緒になんてなれないわ」
「よけいなお世話だ! これ以上、変な真似はしないでくれ」
「変な真似って? 」
「…もういい。…これだけは言っておく」
ちょっと厳しい目をして、一樹は京香を見た。
「もし、お前が俺の大切な人を傷つけるなら。俺はお前をクビにする。いくら、アメリカからの同僚だとしても、お前の家が金持ちだろうと。俺の大切な人を傷つけることは、絶対に許さない! それだけは覚えておけ」
憮然としていた京香だが、一樹の真剣な眼差しにちょっとだけ怯んでいた。