一樹君の恋人は天使なんです
誘惑?
それから1週間後。
宗田法律事務所は今日も忙しそうに、みんなが仕事をしている。
「末森君。ちょっと、手伝ってもらえない? 」
京香が猫なで声で悠を呼んだ。
「この上のファイル、とってもらえない? 届かなくて」
棚の上にファイルを指さして京香が言った。
悠は言われた通りファイルをとって、京香に渡した。
「有難う、やっぱり高いところは男の人に頼むのが一番ね」
と、ファイルを受け取ろうとした京香だが。
「キャッ…」
足が絡んで、ギュッと悠に抱き着いてしまった。
「わぁ、びっくりした。ごめんね末森君。ちょっと、寝不足なの私」
なんだかわざとらしいアクションに、悠はちょっと呆れていた。
「あれ? 末森君って、結構華奢なのね? 見かけより、随分細いんじゃない? 」
「はぁ…」
ギュッと抱き着く京香の手が、スッと悠の腰に降りてきた。
なんとなく嫌な気がして、悠はサッと京香から離れた。
「ごめんなさいね、でも末森君がいてくれてよかった。転ばなくてすんだから」
ちょっと色っぽくウィンクして、京香は去って行った。
そんな2人の様子を見ていた男性社員の藤谷恭太(ふじたに・きょうた)がいた。
ちょとがり勉のように分厚い眼鏡をかけて、髪形はマッシュルームのような髪形をしているキャラの強い男性だが、とても頭がよく、弁護士にはならないが事務員として手側よりフォローしてくれる。
まだ25歳の若さだが、勘が鋭く先を読むのが得意らしい。
「あーあ。あいつ、今度は末森君を狙っているようだな」
去り行く京香を見て、恭太は呆れたようにため息をついた。
その後も、京香は事あるごとに悠を呼んで頼み事ばかりしていた。
お昼になると、自分の持ってきたお弁当を悠に食べてと持ってきた京香。
だが悠は買ってきた物があるからと断っていた。
午後の休憩では、悠がちょっと疲れた顔をしていた。