一樹君の恋人は天使なんです
所長室の中は、来客用の座り心地が良いソファーとガラスのテーブルがある。
そして落ち着いた空間を出すかのように、観葉植物が置いてある。
所長のデスクはちょっと高級そうな机と高級な椅子。
デスクの上には沢山のファイルが置いてあり、一樹が難しい顔をしてファイルに目を通してパソコンと睨めっこをしている。
大変そうだなぁ…。
そう思って、悠は一樹の傍に歩み寄った。
「ここに、置いて宜しいでしょうか? 」
デスクの上に書類を差し出す悠を、一樹は見上げた。
イカツイ目をした一樹と、目と目が合うと、悠はちょっとドキッとした。
「あ、あの…。ここに、置いておきます。…」
ちょっと視線をそらして、悠はデスクの上に書類を置いた。
一樹はじっと悠を見つめた。
「し、失礼しました…」
ちょっと逃げるように、悠は去って行こうとした。
「待てよ」
太い声で呼び止められ、びくっとして悠を足を止めた。
すっと立ち上がり、一樹が悠に歩み寄ってきた。
近づいてくる足音に、悠はドキドキと鼓動が高鳴るのを感じた。
何で呼び止められるの?
何かした?
そんなことを思い、背を向けたままちょっと息を呑んだ悠。
「すぐに戻らないとダメか? 」
え?
呼び止めたときの声より、ちょっと優しい声で尋ねられ、悠はちょっと安心した気持ちになった。
「書類を…届けるように頼まれただけなので…」
ちょっとだけ振り向いて、悠は答えた。
「10分だけ、時間をくれ」
「え? 10分ですか? 」
「ああ」
一樹は棚の中からカップを2つ取り出して、手際よくドリップ珈琲を入れてくれた。
とても良い香りの珈琲の臭いに、なんとなく悠は嬉しさを感じた。
「座れよ」
テーブルにカップを置いて、一樹が悠をソファーに招いた。
ちょっと遠慮がちに、悠はソファーに座った。